妄想性障害

Delusional disorder
DSM-5:統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群

旧来「パラノイア」と呼ばれた「自分は命を狙われている」「愛されている」「神から啓示を受けた」といった妄想を抱く症状。現在では(概念を狭めたうえで)「妄想性障害」と呼ばれている。
統合失調症で生じる妄想には「明らかにあり得えず、通常の生活経験によるものではなく理解できない奇異な」妄想が生じる事が多く、これに対して妄想性障害では「通常の生活などから派生し理解できる範囲での(奇異でない)」妄想が生じる。
妄想性障害の症状は統合失調症と違い、妄想的観念を口にしたりそれに伴う行動が表出している時以外には言動や様子は「一見正常に見える」事が多く、人間関係や社会的身分を損なわず日常生活を維持していることも多い。「命を狙われている」といった妄想を抱いた場合には、日中外出をしなかったり、仕事を辞めるなど社会生活上の問題が生じることもある。

妄想性障害は抱く妄想のタイプによって以下の類型が存在する。

・色情型
「他者が自分を愛している」という妄想。性的な欲求よりも理想化されたロマンチックな恋愛や、精神的結びつきなどを訴えることが多い。より地位の高い人が妄想の対象になることが多いが、まったく見知らぬ相手が対象の場合もある。クレランボー症候群とも呼ばれる。

・誇大型
「自分がなんらかの偉大な才能や見識をもっている」、「重大な発見をしたとの確信を持っている」といった妄想。「大統領のアドバイザーである」といった著名人との特別な関係を訴えるといった場合もある。実在の人物に対して「その人物は偽物や詐称であり、自分自身がその著名な人物である、あるいはその立場にふさわしい」と考えることもある。「自分は神から祝福を受けている」等の宗教的な内容もこれに類する。
・嫉妬型
自分の配偶者や恋人が不実や不貞をはたらいているという妄想。根拠が理由がないまま、衣服の乱れやシーツの染みといった「非常に些細な現象」を理由に妄想を正当化しようとする。オセロ症候群とも呼ばれる。

・被害型
陰謀を企てられる、だまされる、監視される、追跡される、毒を盛られたり薬を飲まされる、悪意を持って中傷される、嫌がらせをされる、長期目標の遂行を邪魔される、といった妄想。ささいな出来事が拡張され、それらの妄想に対して公的措置によって対抗しようと法廷や政府機関にたびたび訴えを繰り返す場合もある。

・身体型
皮膚や口腔、肛門や膣から悪臭を放っている、皮膚や皮下に虫がたかっている、体内に寄生虫がいる、体の一部が不格好であったり醜い、体の部分が機能していない、という妄想。

・混合型
複数の妄想が存在していてどの妄想主題も優位でない場合。
「妄想」とはそれが現実の事実と異なり論理的な根拠などが無いにもかかわらず本人が「それは正しい」と不合理な確信を持ちそれに没頭している状態である。
全てがまったくのでたらめということも無く、わずかばかりの真実や正当性は存在する事もある。しかし、社会や結婚、仕事、生活などの「偶然起こったささいな出来事」に対して「特別な意味がある」と感じてしまい、結果的に「事実関係や根拠」よりも「正しいという確信」が先行してしまう。
多くは不眠や苛立ちなどを抱え込み、不機嫌な状態であることが多い。また嫉妬型や被害型の症状では妄想の対象に対して強い怒りを持ったり、暴力行動に至る場合もある。
論理的な説得や事実関係の提示は効果が薄く、度重なる説得や妄想の否定は信頼関係を損ねる事を考えればむしろ逆効果となる。妄想そのものよりも、それに没頭することによって生じる問題、不眠やイライラ、集中困難などの改善に努め、共感的に取り組んでいく必要がある。

参考文献