統合失調症

Schizophrenia
DSM-5:統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群

私たちは普段、世界や社会、自分の存在や他者の存在等、様々なものを認識している。通常それらは視覚や聴覚といった五感で感じ取られ、思考によってそれを整理・認識している。こうした認知(外界への認識)や行動、情動といった機能になんらかの障害が生じ、社会生活や日常生活に支障が出るような症状を統合失調症と呼ぶ。
統合失調症は古くから知られ、研究や文献にもさかんに取り上げられている代表的な精神疾患である。幻覚や妄想といった「非日常的な症状」は、周囲から見て強い印象を残す。一般的な「精神疾患者」のイメージは統合失調症の症状によって作られている部分も多い。
統合失調症には「幻聴」「妄想」「解体した会話」「興奮(緊張病の行動)」「陰性症状」といった症状が存在するが、人によって各症状の有無やその程度(重症度)が違い、症状のパターンは様々である。これらの症状の有無、強さ、持続期間の違いを確認し、症状が「複数の症状」が「継続的に」現れる場合に統合失調症と診断される。

妄想


「固定化した信念」とも言える症状で、「天井裏に誰かが住んでいる」、「脳の中に装置を埋め込まれた」、「電磁波が聴こえる」等々、社会通念上「ありえない考えを正しいと思い込む」状態。たとえ明白な証拠や反証があったとしてもそれによって(信念が)覆される事はない。「自分の内臓がいつの間にか他者のものと取り替えられてしまった」といった「物理的に」あり得ない妄想も存在する。「被害妄想:人や組織などから危害を加えられる、嫌がらせをされると信じる」「関係妄想:周りの人の仕草や言葉、身の回りの「些細な事」を自分に向けられている、と信じる」「虚無妄想:大規模災害等の大きななにかが起こるという信念」「思考障害:考えが奪い取られる、考えが盗まれる、考えを外からあやつられる、会話が支離滅裂になる、といった思考にとりつかれてしまう状態」

幻覚

外的刺激がないにもかかわらず起きる知覚体験。「本などで目に入った文章が一字一句耳から聞こえてくる」「悪口や脅迫が聞こえてくる」、「誰かに命令される」といった「聞こえないはずの声が聞こえる」状態。本人にとっては正常な知覚と同等の鮮明で確かな体験であり、意志の力で幻覚を止めることはできない。知覚体験は五感のどの感覚でも起こりうるが、統合失調症(や関連障害)では「声」として体験される「幻聴」が最も多い。

解体した会話

会話や質問において、筋の通ってない話をしたり、あるいはまったく接点のない受け応えをすること。

ひどくまとまりのない行動や、緊張病性の行動

日常的な自然な振る舞いが失われ、緊張していたり、落ち着きの無いあわただしい行動をとったり、明確な目的の無い繰り返しの行動をとったりする。

陰性行動(陰性症状)

活力が無くなったり、言葉数が少なくなったり、社会的な関わりや感情を表現しなくなったりする。外界に全く興味が無くなり、そのこと自体も苦にならない様にみえる。
妄想や幻覚といった諸症状は患者本人にとっては「現実の問題」として捉えられており、「それが病気によるものである」といった自覚を持ちづらい。「病識(自分が病気だという自覚)」が無いため、自ら病院を訪れることが難しいだけでなく、周囲の勧めがあっても通院や治療を拒否することがある。
症状が原因で人間関係のトラブルを起こすことも多い。周辺住民とのトラブルや公的な場での立ち振る舞いが原因で警察等の公的機関の介入がなされることもあり、その際に「自傷や他害のおそれ」が認められる場合には「医療保護入院」や「措置入院」といった強制力のある公的措置がとられることもある。
日本では当初、ドイツ語の「Schizophrenie」を「精神分裂病」と訳し、それを用いてきたが「精神が分裂している」というよりは「(感覚の)統合が上手く出来きていない」という表現の方がより症状に即していることから2002年に「統合失調症」と改称された。
発症には遺伝要因と環境要因の双方が相互に関係しており、発病への過程や経過・予後は様々な形態を取り一定ではない。
一度発症するとその症状は生涯にわたって継続するが、薬物療法などの治療を継続的に行う事で症状が緩和するケースも多い。逆に薬を飲むことを急に止めると症状が再燃したり、さらに悪化することもある。

 

参考文献